エロと進路と

めっきり春を超えて初夏になってしまった。いつも淹れる紅茶に氷を浮かべてアイスティーにした。こういうところから季節は変わっていく、意識が追いつくのはいつも後手後手の話。

 

 

突然だけど、わたしは最近自分の未来についてものすごく真面目に考えている。いや遅いだろって言われたら本当に遅いのだけど(わたしはこのあいだ誕生日を迎えてまたシャレにならない年齢になってしまった)、いままで逃げて逃げてきたことに立ち向かう勇気が出てきたってことで、わたしとしてはこれは喜ばしいこと。逃げて逃げて、落とし前をつけずに死んでいく人間のほうがおそらく多い。そうして降り積もった後悔やらため息やらの塊がいままさに生きている地球なのではないかな?と思う。げに嘆くべきは人の世という。まったくそのとおりです。そして紛れもなくわたしはその世界を構成する一要因。


 

その自分の未来というのが、これがまた恥ずかしいような照れくさいようなことなんですけど、漫画家になりたいんです。漫画でごはんを食べていきたい。できたらおいしいやつ。漫画で家賃を払いたい。広くなくてもいいから友達を呼びやすい家の家賃を。漫画で服や靴を買いたい。できればいいやつを。するかはわからないけど結婚したり子供を産むのにだってお金がかかるわけで、それを払いたい、自分の書いた漫画でお金をもらって。

 

 

こんなしゃれにならないような年齢になって目指すものがそれかよ~!ドッヒェー!みたいなリアクションを期待して(半分は期待しないで)両親にそれを告げたら、「そうなるしかないような気はしていた」と言われたことで、背中を押されたはずはないのに勝手に元気になった。

 

 

もともとわたしは、これは嫌味に捉えないで欲しいんだけど、『勉強のできる子』で、田舎の小中高ではそれなりの異彩をはなつガキだった。はずなんです。そうじゃなかったらああいう扱いはされなかったはずだ、と思い当たることがいくつかある。当日になるまで知らされなかった実力テストで1位を取ったりとか、そういう漫画みたいなことも何度かやった。あんたさえいなければ、と2位だったガリ勉優等生に面と向かって泣かれたりとか、そういうこともあった。絵を書くのが好きで切り絵みたいなスタイリッシュの真似事をしたような絵を描いて人の注目も集められた。要は、無自覚に他人のコンプレックスをちょいちょい刺激してしまうきらいのある子供で、いまのわたしだったら絶対関わり合いになりたくないようなガキ、それがわたしだった。

 

 

そんなわたしが浪人を経て大学に入った。夢見れば総理大臣にでもなれるような立派な校章のついた大学で、わたしは横目をかすめ通り過ぎる『家柄から何からまじですごいインテリ共』に恐れをなしながら、与えられた環境で精一杯自分というものを発揮しようとして、身の丈に合わない突飛なキャラクターを演じていた。そしてイタリアに留学。イタリアというのは嘘がすぐにばれる国なんです。カルチャーショックの積み重ねに精神は決壊してほうほうのていで帰国。

 


そして数年間、東京のアパートに引きこもってメンをヘラつかせていた。

家族は謎の包容力でわたしをほうっておいてくれたし、幸運にもなぜか優しくしてくれる友人、わたしが死にたいとうめいている横で昼寝をしてくれるような友人が、そばにいてくれたおかげでまあまあ回復してきたところに、ディズニーの長編映画『三人の騎士』に出てくるホセ・キャリオカというキャラクターに出会い、しばらく描かないでいた絵を描いてみようと思って今に至る。


もちろん引きこもっていた、といっても、それなりに危機感はあっていろんなバイトを渡り歩いた。コンビニ店員から居酒屋店員、バーテンダー、事務員とか通訳とか翻訳家とかとうもろこし売りとか香水の販売員とか美容関係の仕事だとか。でもなにひとつ続かなかった。理由はいろいろあるけど、どこにいっても身体的な特徴についてセクハラを受けたことや、そもそもの社会性のなさが要因としては大きい。とにかく本当に、なにひとつ続かなかった。

 

 

そんなわたしが唯一、年単位で続けられていること、それが、漫画をかくこと、なんです。

英語もイタリア語も、まあ使えます。だから大学に行って勉強する機会が与えられたのは本当によかったとは思う。でも仕事にして食べていける自信はない。いろんな仕事をやってみたけど、結局のところ全部ねっこのところで性に合わなくてだめだった。そういう、消去法とブレーンストーミングが合致した、唯一の職業が漫画家ってわけです。

 

 

どう?もう逃げられなくないですか?

わたしはもうここまでだ、と思いました。向き合わなきゃ、描かなきゃ、と思いました。

 

 

絵が下手、デッサンができない、構図力もない、パースも取れない、キャラデザもできない、色彩センスもない、メカが駄目、ファンタジーに馴染みはない、美大とか専門とかに行ったことがない、つまり『師匠がいない』、シャレにならない年齢。

 

 

書き出してみるとなかなかえぐられる条件の悪さだけど、これを超えてあまりある『逃げられなさ』が自分の中にあるおかげで、なんとか頑張れそうかな?という気にはなってる。というか、やらないとヤバい。だって逃げられないわけだから。落とし前をつけずに死んでいくのは嫌だから。


利根川先生の仰るような具体的にコツコツお金を貯めるタイプの、ある種ステレオタイプで標準的な人生がわたしの第一志望だった。そしてわたしにはそれができなかった。大きな大学には入ったけど、エリートとして大企業に送り込まれることはかなわなかった。公務員にもなれなかった。周りの嘆きや恨み言が聞こえてこないわけでもないです。自分を責めないわけでもないです。ただ、もうこれしかないんです。本当に、本当の意味で、『逃げられない』。

 

 

 

 


というわけで、5月末までには16ページの漫画を作って、具体的な編集部に持ち込みをしてみようと思う。

同人はエロに挑戦してみようと思う。(エロは画力が上がると聞いたので)

 

 

 

 

 

そういうこと、それだけ。

こんなに長々と書いたけど結論なんてひとことでよかったんだね。『もう逃げられない!』